『母の遺言』『扉』(藤川幸之助)の詩に感動
更新日: 2018年08月15日
藤川幸之助作の『母の遺言』と言う詩を、東本願寺出版発行の「お盆」の冊子に掲載されて知りました。親を介護中のひと、介護の末に送った方など、「私もそうだった」と共感する部分が多いので、是非皆さんにも紹介します。

『母の遺言』 藤川幸之助

駆け付けると
認知症の母は死んでいた
もちろん遺言なんて
どこにもなかった

母のおむつを替え
言葉のない母に戸惑い
徘徊する母に苛立ち
一晩中探し回った
母との一日一日

死へ向かう母の姿も
死へ抗い生きようとする母も
それを通した自分の姿も
全てつぶさに見つめて
母を私に刻んできた

母の亡骸は母のものだが
母の死は残された私のものだ
母を刻んだ私をどう生きていくか
それが命を繋ぐということ
この私自身が母の遺言


☆次に『扉』という詩(「満月の夜母を施設に置いて」より)を紹介。94歳の知り合いのお祖母ちゃんが施設入居された。とてもしっかりしたオバアチャンだが、最近徘徊されて家族が困られた末の対応。きっとオバアチャンの頭の中も混乱されているだろう。

『扉』 藤川幸之助

母を老人ホームに入れた
認知症の老人たちの中で
静かに座って私を見つめる母が
涙の向こう側にぼんやり見えてきた
私が帰ろうとすると
何も分かる筈もない母が
私の手をぎゅっとつかんだ
そしてどこまでもどこまでも
私の後をついてきた

私がホームから帰ってしまうと
私が出て行った重い扉の前に
母はぴったりとくっついて
ずっとその扉を見つめているんだと聞いた

それでも
母を老人ホームに入れたまま
私は帰る
母にとっては重い重い扉を
私はひょいと開けて
また今日も帰る


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